法人税確定申告書の役割 | 法人税申告書の作成手順概略 | 修正申告書の作成
毎年の決算が終わると、決算書とともに法人税確定申告書の作成を会計事務所に依頼されている会社も多いかと思います。
決算書そのものは、理解できるとしても税務申告書までは何が書いてあるのか。決算書と法人税確定申告書との関係はどのようになっているのか?
ベテランの経理課員の方でも不案内である方もおられるかも知れません。
以下に、法人税確定申告書にはどのようなことが書かれているのか、決算書類との関連性に関する部分を中心に箇条書きでまとめてみました。
皆様方のご参考になれば、望外の喜びでございます。
税務や会計のプロである会計事務所(税理士)に任せてあるから、安心と思われている方も多いかと存じます。
しかしながら、法人税確定申告書には間違いがよくあるものです。
私が国税職員に成り立ての頃、申告書のチェックをしていると妙にいろいろな書き方があるものだと頭を悩ませていました。
ところが、よくよく勉強してみると、それが間違いであることに気づきました。
また、私の会計事務所(公認会計士事務所・税理士事務所)に他の会計事務所から移って来られたお客様の申告書を拝見しておりますと、半分ぐらいは多少なりとも間違いが見受けられます。
節税の観点からも正しい法人税確定申告書の作成が望まれます。 ご都合宜しければ皆様方の会社の税務申告書を点検させて頂ければ幸いでございます。
お気軽にご連絡下さいますようお願い申し上げます。
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(株主総会や社員総会等において)確定した決算から課税所得等を計算し、決算内容と税務調整事項を課税庁へ報告
法人税確定申告書を総まとめするための別表です。
・所得金額に対する税額を計算
・税額控除(特別控除・所得税額控除・法人税額控除)
・土地譲渡益課税の加算
・留保金課税の加算 他
会計上の利益から税務上の所得を計算する別表です。
・当期利益から課税所得金額を導出
・当期の所得金額の算定過程を明示
(会計と法人税法の相違をフローの側面から調整)
よって、法人税申告書の別表四は法人税のP/L と理解しましょう
@確定した決算による利益金額もしくは損失金額よりスタート
※決算調整を法人税法にて要求される事項は反映済
A申告調整事項
1.必須的申告調整事項
・別表四にて必ず調整しなければならない事項
・調整しなければ、課税庁が職権で更正する事項
※未払法人税等(納税充当金)は税務上では引当金と考えているため加算
2.任意的申告調整事項
・必ずしも申告調整を必要としない事項
・利益積立金額増減に影響する項目を記載
・減価償却費過大計上、売上計上漏れ、引当金過大計上等の貸借項目に残高生じる項目を記載
・留保項目の加算・減算の例
・会計上の利益以外で所得金額に加算するが貸借項目に残高が残らない項目を記載
・社外流出の減算(課税外収入)とは、課税所得から除し、なおかつ、利益積立金額を減少させない項目
(前期以前に留保されていない項目)
・社外流出項目の加算・減算の例
会計上の利益剰余金と税務上の利益積立金額の相違を導出する別表です。
1.前期末利益積立金額から当期中の増減額を記載して、当期末利益積立金額を算定
(会計と法人税法の相違をストックの側面から調整)
2.利益剰余金から利益積立金額(税務申告書)との差額を明示
3.申告調整事項の累計計算
よって、法人税申告書の別表五(一)は法人税のB/S と理解しましょう
期首現在利益積立金額@の列
前期確定申告書 別表五(一)Dの列を転記
修正申告をした場合、更正(処分)を受けた場合
修正申告、更正後の別表五(一)Dの列を転記
厳密に考えると、実際の期首時点における利益積立金額とは相違する。
前期、利益処分後でかつ法人税等の納付がされていない状況と考えると理解しやすい。
当期中の増減ABの列(25行まで)
前期以前に税務調整が発生済である事項の認容金額並びに否認金額(別表四の留保欄に記載された金額)
加算項目・・・当期中の減Aにてマイナス記入
減算項目・・・当期中の減Aにてプラス記入
当期において新たに発生した税務調整事項のうち、留保欄に記載した否認金額及び認容金額
加算項目・・・当期中の増Bにてプラス記入
減算項目・・・当期中の増Bにてマイナス記入
※否認・認容金額であっても、別表四の社外流出欄に記載される金額は、別表五(一)に影響しない。
繰越損益金
前期繰越利益から次期繰越利益の算定
(利益処分計算書間の整合)
実務上の書き方
A欄に@の金額(前期繰越利益)を記入
C欄に利益処分計算書の次期繰越利益を記入
理論的な書き方
当期利益と決算後の利益処分による増減差額(純額)をC欄に記入
(A欄には記入事項なし)
納税充当金
会計上の未払法人税等(住民税、事業税を含む)
A欄に、当期中において納税充当金を取り崩して納付した法人税、法人住民税及び法人事業税の合計金額
B欄に、当期末に未払計上した法人税、住民税及び事業税の金額を記入
注意・・・法人税、住民税及び事業税勘定に計上されていても期中に納付済みの部分は、ここに含めない。
※期末において計上されている未払法人税等(納税充当金)は引当金と考え、
債務が確定していないため、利益積立金額に加算。
※確定した未納金額を改めて利益積立金額より減算。
(税金を利益処分にて引き当てていた時代のなごりか?)
税金(法人税、都道府県民税、市町村民税)納付状況の記載(行番号28〜30)について
A(前期末未納分)当期中の納付金額+中間分の納付金額(利子割納付を含む)
B中間分の納付金額(利子割納付を含む)
C期末確定未納税額の記入
税金が利益処分経理されていた時代のなごりで、この欄に記入することになっている。
(慣例に過ぎないと思われる。)
(上記のABCは別表五(一)の列を表しています。)
別表四・別表五(一)は整合し、検証機能あり
P/L 、B/Sと同様の関係
別表四 → 法人税のP/Lと考える
別表五(一) → 法人税のB/Sと考える
別表四のうち、留保項目を別表五(一)へ
留保項目 ← 利益積立金額の増減事項
別表五(二)より、別表四・別表五(一)を記入
これらの記入事項に間違いがないか確かめるには、次の検算が有効です。
A+B−C= 別表五(一)(31D)期末現在利益積立金合計→当期利益処分後の利益積立金額
A:別表五(一)(31@)期首現在利益積立金合計→前期利益処分後の利益積立金額
B:別表四(30留保欄)留保総計→当期の所得(損益)による利益積立金増加額
C:中間分、確定分法人税及び法人住民税の合計金額→当期分として納付すべき法人税・法人住民税
税金の納付状況を経理処理別に整理・明示
別表四並びに別表五(一 ) の明細表的な役割
法人税、住民税、事業税、その他租税公課の納付状況を記載
税目別
事業年度別
経理処理別
納税充当金の取り崩しによる納付
仮払金処理による納付
損金経理による納付
納税充当金に関する期中増減の明細を記載
(損金計上した)納税充当金への当期繰入額は別表四にて加算
取崩については、取崩目的別に記載。
納税充当金の取り崩しによる納付
未払法人税等に計上されている金額を取崩処理して納付した金額。
つまり、当期もしくは前期以前にB/S、並びにP/L に計上済の金額。
事業税等の損金に算入される税金を納税充当金の取崩にて納付すると、別表四にて減算の対象となる。
損金に算入されない法人税・法人住民税の納付については、別表四へ影響しない。
損金処理による納付
当期中の納付額で損金計上(P/L 計上)のみが行われている金額。
損金に算入されない税金(法人税・法人住民税・加算税・延滞税等)は、別表四にて加算処理
損金に算入される税金(事業税・事業所税・利子税・固定資産税・自動車税等)は、別表四への転記不要
仮払金処理による納付
納付時に仮払金計上や還付される金額につき未収入金等に振替処理した金額。
(当期もしくは前期以前に損益処理されていない納付分)
納付済みの法人税等(事業税含)は仮払金処理で支払っている場合でも、利益積立金額から控除することになるので、別表四にて減算処理。
上記のうち、損金不算入の税金は別表四にて加算処理。
仮払金処理で支払った税金を翌期等に消却(損益振替)した際には、支払をした決算期に所得計算上減算処理しているので、消却の内容にかかわらず、すべて所得金額に加算(別表四)処理する。
@別表五(一)(二)の前期繰越
A別表五(二)期中における税金納付状況
B別表五(一)の期中増減金額
C個別計算の別表作成
・別表六(一)
・別表八・・・税効果会計の影響有
・別表十一(一)(二)(三)
・別表十五
・別表十六(一)(二)(五)(六) など
別表四と関連する別表の作成
・別表十四ほか
D別表四の完成(税効果を除く)
E別表一
税額計算
F別表三
G地方税
H課税標準の案分
法人事業税・法人住民税
I税効果会計の計算
J税効果に係る別表四・別表五(一)
K別表五(一)(二)の確定
L当期確定未納税額の記入
修正事項の処理
当初申告で誤った事項について、各種別表を再作成(引当金、寄付金、交際費、減価償却費等)する。
これらの結果と、会計処理の相違事項を別表四へ転記
留保項目については別表五(一)へも転記が必要
申告書別表にない事項については、直接別表四、別表五(一)に記入
税額計算後、別表五(一)(二)が完成
修正申告の対象となった事業年度の翌事業年度における処理事項
修正事項のうち、留保対象となった事項が対象
会計上の受け入れ処理
前期損益修正益としての受入
会計処理を要しない場合(会計と税務の乖離がある場合)
修正申告の対象となった事業年度の翌事業年度における申告書の処理
修正申告と会計処理による二重課税を避けるための処理
別表四と別表五(一)の処理
修正申告・・・加算(減算)事項 ※留保事項のみ
翌期の申告書上の処理
別表四・・・・・・・減算(加算)の留保欄に記載
別表五(一)・・・当期中の減Aにプラス(マイナス)金額で記載
会計処理を例外的な考えに基づいて実施した場合には上記の処理と異なる場合もあり
別表の書き方は修正申告も更正も同様の記載方法となる
修正申告(更正)の対象となった翌事業年度の処理
是否認事項のうち、留保金額とされる金額について処理
対象年度以降の年度における会計処理の違いによって、別表五(一)の記載方法に相違が生じる
別表四と別表五(一)の処理
翌期の申告書上の処理
別表四・・・・・・・減算(加算)の留保欄に記載
別表五(一)・・・当期中の減Aにプラス(マイナス)金額で記載
会計処理によっては、一時に消却せずに連年処理が必要
(固定資産の減価償却費償却超過額等)
(参考事項)
益金の額に算入すべき金額とは
別段の定めがあるものを除き、以下のとおり
商品・製品等の資産の販売による収益の額
固定資産・有価証券等の資産の譲渡による収益の額
請負等の役務の提供による収益の額
無償による資産の譲渡や役務の提供による収益の額
無償による資産の譲受けによる収益の額
企業会計でいう収益と若干範囲が異なることに留意
別段の定めがある場合を除き、以下のとおり
収益に対応する売上原価、完成工事原価等の原価の額
販売費、一般管理費等の費用(償却費を含む)の額
災害等による損失の額(資本等取引を除く)
期間費用については、償却費を除き、事業年度末までに債務が確定していることが必要
(税務上)債務の確定とは
その費用の債務が成立
その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が生じていること
その債務の額を合理的に算定することができること
各事業年度の所得等の金額のうち留保している金額の合計額が、各事情年度の欠損金額の合計額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額
上記の留保している金額には、納付すべき法人税額並びに道府県民税及び市町村民税(都民税及び均等割を含む)の額は含まれない。
各事業年度の所得等の金額とは
各事業年度の所得の金額
受取配当等の益金不算入額、還付金等の益金不算入額、合併差益金のうち被合併法人の利益積立金額からなる部分の益金不算入額
繰越欠損金の損金不算入額
各種所得の特別控除額
修正申告とは
納税者が自主的に(税務調査による修正申告の慫慂を含む)課税庁に対して当初提出した申告書よりも税額が増える場合に提出する申告書
税額が減少する場合には「更正の請求書」を提出することになる(法定申告期限から1年内に提出しなければならない)
※課税庁が強制的に所得金額や税額を修正する処理は更正(処分)と呼ばれる
更正処分
税務調査により、申告に係る課税標準又は税額を増減額する処分
・・・調査と密接に関連した行政処分
修正申告書の提出
税務調査によって修正申告の慫慂を受けた場合をも含め、課税庁に対して当初提出した申告書よりも税額等が過小であったことから、増額修正するために提出される申告書
・・・納税者側の自主的な税務行為
共通点・・・延滞税及び過少申告加算税等の賦課
更正処分
更正処分は行政行為であり、青色申告の場合には更正に係る具体的理由を附記しなければいけないことになっている。また、所定の期間内であれば異議の申立をすることができる。
修正申告書の提出
納税者による自主的な税務行為であるため、取り下げは認められず、修正申告に誤りがあった場合においても、法定申告期限から1年を経過していると更正の請求(減額)をすることもできない。
→異議の申立ができないため、納税者に不利
修正申告書の提出は慎重に行うべきであり、事後救済手続きをも考えて対処すべき。
(作成:公認会計士・税理士 伊藤誠一)
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